社員が一人前になる前に辞めてしまうロスの回避

『えっ、また辞めちゃった!?』

A社は社員数約30人の中小企業ですが、直近の一年間で社員が3名も辞めて行きました。いずれも、入社して約2年程の若手社員です。

現場で一から仕事を教え、いよいよこれから一人前になって会社に貢献してもらおうという矢先の退職ですので、社長のショックは測り知れません。いったい何が原因なのでしょうか…。

社長が特に目を掛けていたKさんに理由を尋ねると、『今の会社では、将来の見通しが立たないので、辞めさせて頂くことにしました』と言います。ハッキリとは言いませんが、ようするに、『給料が安いから辞める』と、社長には聞こえました

しかし、給与を引き上げるのはそう簡単なことではありません。社長は悩んだ末に当事務所にご相談に来られました。

経営視点で捉えるべきは“給与水準”よりも“稼げる組織作り”

給与はコストだから安価な方がよい?

社員の給与に関する考えを伺ったところ、A社の社長も、他の多くの社長同様、『社員の給与はコストだから、企業にとっては安価な程良い』という捉え方をされていました。
しかしこの考え方は、一面では当を得ているものの、よくよく捉え直すと矛盾した面も見えて来る時があるのです。“その時”とは、社員が《給与の低さ》を理由に辞める時です。

たとえば、A社では、新規採用者が一人前に成果を出すまでには、最低2年間の育成が必要だと仮定しましょう。そして、新人にかかる人件費は、社会保険料を含めて年間350万円とし、一人当たりの採用費関連費は50万円だと仮定します。

すると、辞めた社員1人当たりに投じた資金が、人件費350万円と採用関連費用50万円だけだったとしても、A社は既に(350万円×2年間+50万円=)750万円の回収できなかった人材投資を行ったことになります。A社の場合、前述の通り退職者は3名ですから、単純計算をすれば(750万円×3人=)2,250万円にも達します
その間の《指導の手間》まで考慮すれば、実質コストはもっと掛かっているでしょう。

その後、辞めた社員と同じ条件で人員を補充できたとしても、処遇や労働条件が変わらなければ、やはり一人前になる前に退職してしまう可能性は小さくないかも知れません。そうなると、再び同額の負担だけが会社に掛かった上に、また人員を補充しなければならなくなるのです。

これを繰り返しているうちに、組織力はどんどんと疲弊し、その結果企業としての競争力は、大きく低下して行くことになりかねません。今度は費用の増加だけではなく、収入の減少が懸念されるということです。

経営として、この負の連鎖を断ち切らなければならないのです。つまり、社員の定着率を引き上げる工夫が必須になるということです。

定着率はどうすれば高まるのか?

では、どうすれば定着率が高まるのでしょうか。そのヒントは、辞めて行く社員の《コメント》の中にありそうなのです。一般に、社員は『給料が安いから辞める』とは言いません。多くの場合、A社のK君のように、『先の見通しが立たないから辞める』と言うのではないでしょうか。

その先の見通しには、結婚やマイホームの購入等が控えているかも知れません。あるいは車を買いたいのでしょうか。いずれにしても、『今は耐えられても、先行きの収入に期待ができない』ということなのです。先輩社員も『私も〇年勤務しているけれど、いまだに給料は安いよ。最近では残業も少なくなったし…』等と、若手に不安を与えているかも知れません。

そのため、そんな曖昧な愚痴や噂を払しょくする《給与の先行明示》が不可欠になるのです。半人前の時には、ある程度の残業をさせてくれるし、一人前になったら基本給が上がり、会社の業績が上がれば賞与もしっかりもらえて、その先には役職手当がある…、そんな先の見通しが明確に分かる制度が必要だということです。

たとえば、SEの採用に苦労していたシステム開発会社でも、初任給を引き上げるとともに、中核SEの給与を一気に数万円引き上げたところ、求人への応募者が増えたばかりではなく、定着率が高まったという報告があります。先行きの生活に希望が持てるなら、好きな仕事を辞める理由はなくなるのです。

給与を引き上げる原資がないと考える前に…

しかし、給与を引き上げる原資がない…、でしょうか。A社の場合なら、考え方次第では、先程計算した、退職した社員に掛かった人材投資額の2,250万円が原資になりそうです。もちろん、これは既に失った投資額ですが、今後のやり様次第では、失わないようにもできるという意味で“原資”なのです。

確かに、給与を引き上げれば定着率が高まると言う保証はありません。それは一種の賭けにも見えるかも知れません。しかし、社外に任せるのではなく、自社で管理できる投資ですから、確実性は決して低くはないでしょう。
そして、人材関連投資の無駄の克服に成功すれば、その直接効果自体が大きいばかりではなく、結果として、熟練社員が増加して企業の競争力が高まって行くなら、総合的な業績効果は計り知れないものになり得るのです。

今後どんどん国内市場が狭くなる中では、この競争力の確保課題は、もはや死活問題と言えるはずです。

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